引越から二ヶ月が経って

 早いもので庭がある家の生活からマンション生活に変って二ヶ月が経ちました。部屋の前には池(菖蒲上池)が拡がり、水面で冷やされた気持ちの良い風が吹き込むのと、池の周りに植えられた木々の緑が空の青さを移す水面に映え、そんな季節感に浸らせる自然に囲まれ、仕事に出かけるのも億劫になるくらいです。22日は日中予定のない休日だったので、朝は前々からしたかったジョッギングを試みることにしました。僅か1キロにも満たない池の周りを走っただけなのですが、慣れていないのか、すっかり息がきれました。しかし自然環境がどんなに優れていようとも、生活に全く問題が無い訳ではありません。

 今妻と年老いた母との三人暮らしです。それまで棲んでいた家は父親が二世帯で暮らせるように建てた家で、父親と母親は階下に暮らし、私たち家族は二階で、台所もリビングも別々に暮らしておりました。一階と二階が互いに顔を合わさずとも済ませる構造の住居だったのです。その父が亡くなって十年、母親はその後も元気で階下に暮らしておりました。だが本当に元気で暮らしていたのは、今から思えば、どうやら引越半年前くらいまでであったようです。

 ふと気がつけば、母親は一人では何の判断もつかないほどに急に年をとってしまいました。一人では電化製品のスイッチさえ操作することができません。歯を磨くにも、洗面台の前の様々なものから歯磨きチューブを選び出すことさえ出来なくなっていました。そう言えば、引越前にふと階下の母親が使う洗面台を見たとき、なぜだか分からぬが、非日常的な感じを受けたことがあり、その時にもう少しよく調べてみるのだった、と今にして思うくらいです。

 そのうちに私や、私に代わって母親の面倒を見ている妻に向かって、「あなたは誰?」と言い出すのかもしれません。それでも私は、私の幼い頃からの母親とのいろいろな思い出に背中を押され、ただ母親が喜んでくれることをできる限り数多くしておきたいと思うだけなのです。22日のお昼には、近くに住む娘を呼び、母親と妻と4人でなら町に食事に出かけました。街路を注意深く見れば、季節柄いろいろな花が咲いており、一時、夏の暑さを忘れさせてくれました。